仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは笠井亮平著『インドの食卓 そこに「カレー」はない』(ハヤカワ新書)――。
■イントロダクション
インドに実はカレーという料理はない、と聞いてにわかに信じられるだろうか。日本のインド料理店を訪れれば、必ずカレーがメニューにあるし、インド旅行先でカレーを食べたという人も多いだろう。
だが、本来インドにカレーと呼ばれる料理はないのだという。どういうことだろうか? カレーとは一体何なのか。
本書では、在インド日本大使館にも勤務した南アジア研究者がインド料理のステレオタイプを解き、その多様な世界を、インドの近代政治史を含むさまざまなエピソードを交えて紹介している。
インド料理は、周辺地域や欧州、中国などの影響を受けて進化し続けてきており、例えば、近頃、カレーやナーンの他に、新たなインド料理の“大スター”として注目される「ビリヤニ」は、ペルシア料理を起源として16世紀のムガル帝国時代に生まれたものだという。
著者は岐阜女子大学南アジア研究センター特別客員准教授。専門は日印関係史、南アジアの国際関係、インド・パキスタンの政治。在インド、中国、パキスタンの日本大使館で外務省専門調査員として勤務した経験を持つ。
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1.「インド料理」ができるまで――4000年の歴史
2.インド料理の「誤解」を解こう
3.肉かベジか、それが問題だ――食から見えるインドの宗教、文化、自然
4.ドリンク、フルーツ、そしてスイーツ――インド料理に欠かせない名脇役たち
5.「インド中華料理」――近現代史のなかで起きたガラパゴス化
6.インドから日本へ、日本からインドへ
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■インドに「カレー」なる料理はないと言える
インド料理といえば、何といってもカレーである。日本で国民食となったカレーのルーツは、もちろんインド。ところが、インド人は必ずしもカレーばかり食べているのではないのだ。それどころか、そもそもインドに「カレー」なる料理はないとすら言える。
多くの日本人が思い浮かべるような意味での「カレー」に相当するものはない。あえてインドの「カレー」を説明すれば、それは「さまざまなスパイスで調理した料理全般」ということになるだろうか。(*カレーと総称される料理は)豆が入った「ダール」、南インドでポピュラーな野菜が入ったスープ状の料理「サンバル」など、それぞれの料理に名前が付いている。
今日世界に広まっているインド料理は北インド料理がベースになっているが、そこに絶大な影響を及ぼしたのがイスラム王朝のムガル帝国である。ムガル帝国は1526年に(*当時の北インドを支配していた)ローディー朝を滅ぼすと、しだいに領域を拡大していき、インド亜大陸全土を支配する安定的な統治体制を打ち立てるにいたった。その統治は3世紀以上に及んだ。
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