華やかなフレンチのシェフが、障害者施設で菓子作りを指導している。料理と福祉。異色の組み合わせにも思える活動をしているのは「パレスホテル大宮」(さいたま市大宮区)の総料理長、毛塚智之さん(54)だ。
「何よりもクオリティーが大事。障害者が作っても、ケーキ屋さんと同レベルじゃないとだめなんです」と熱っぽく語る。本業では二〇二〇年度の「現代の名工」に選ばれた腕を持つ。多忙な仕事のかたわら県内の障害者施設を飛び回り、焼き菓子作りを指導してきた。
きっかけは十四年ほど前。ホテルの二十周年事業で児童養護施設で食事をサービスした。そのとき知り合った県職員に「明日の夜、空いてる?」と誘われた。行ってみると福祉関係者の集まりだった。「施設で作ったクッキーが売れない」「お情けではなく買ってもらいたい」−。そんな訴えを聞いた。協力を約束したが、福祉は未知の分野。どうしていいか分からない。「とにかく自分の目で見てみよう」と県内各地の障害者施設を回り、障害の種類も人数も多様だと分かった。
作っている焼き菓子の品質もまちまちで「砂糖が歯にくっついて取れないクッキーもあった」。最初は「ホテルのレシピを教えて」と言われたが、「それでは個性がなくなる」。まずはそれぞれのレシピ通りに作ってもらい、その上で改良方法を助言した。
指導を基に質を高めた商品を、県内の福祉施設で作った焼き菓子を販売するクッキーバザールに出品すると、それまでの倍売れるようになった。販路を広げるため勤め先の経営陣に頼み、ホテルでも販売を始めた。「ホテル品質だとお客さまに信頼してもらえる」からだ。最初は懐疑的な視線も感じたというが「結果が全て。急に福祉関係者から問い合わせが増えた」と笑う。
やがて「障害者の幸せのためには、施設のスタッフがまず輝かないと」と気付いたという。十年ほど前に県内の施設を対象としたクッキーコンテストを開始。「障害者の作るものに優劣をつけるのはどうか」との声もあったが、スタッフを含めた「やる気」につながると考えた。「評価されてうれしくない人はいない」
埼玉で働いて今年で三十四年。地元愛は強い。近年は県内の小中学校などで出張給食を提供するなど「食育」にも力を注ぐ。「食べることは楽しいと次世代に伝えていきたい」。これからもノンストップで活動を続ける。(出田阿生)
<けづか・ともゆき> 1968年、栃木県栃木市生まれ。東京・九段下の「ホテルグランドパレス」(閉館)、「パレスホテル東京」の高級フレンチの調理担当などを経て、88年開業の「パレスホテル大宮」へ。2017年から総料理長。14年に「埼玉の名工」、20年に「現代の名工」を受賞。
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