こんにちは。料理・食文化研究家の庭乃桃です。
皆さん、海鮮鍋はお好きですか? スーパーマーケットに行くと、魚や貝類、エビ、カニなど、鍋の具材にぴったりな食材がたくさん並べられていますよね。
そして、複数の魚介が入った海鮮鍋セットが売られていることも多いはず。そこで今回は、手軽に使える海鮮鍋セットを使い、日本ではちょっと珍しいイタリア料理を作ってみたいと思います。
その名も「カッチュッコ(Cacciucco)」。ちょっと面白い響きがするこの料理名は、つづりに5つの「C」が入っているのがポイント。それにちなんで、5種類以上の魚介を入れて作るのが伝統とされている料理です。
イタリア半島の西側に位置するリヴォルノという街の郷土料理ですが、同じ地中海をはさんだフランス・マルセイユの名物「ブイヤベース」にも少し似ています。ブイヤベースがサフランをはじめとするハーブで香りづけされることが多いのに対し、カッチュッコの味付けは比較的シンプル。その分、魚介とトマトの濃厚なうま味が感じられる一品になっています。
そんなカッチュッコは、ポイントを押さえればご家庭でも手軽においしく作ることができます。白身魚、エビ、カニ、貝類、タコ、イカなど、海鮮具材はお好みのものでOK! どんな魚介を組み合わせてもおいしく、白ワインを入れることで臭みも気にならずにいただくことができます。
それでは作っていきましょう。記事の後半には、カッチュッコと相性ぴったりなガーリックトーストの作り方や、辛さをアップしたい人向けのアレンジもお伝えしますので、ぜひ最後までお楽しみくださいね。
イタリア料理「カッチュッコ」
材料(2人分)
- 海鮮鍋セット……2人前(300~350g)
- トマト缶……1/2缶(200g)
- 玉ねぎ……1/4個(50g)
- にんじん……1/3本(50g)
- セロリ……1/2本(40g)
- にんにく……1片
- 赤唐辛子……1本
- オリーブオイル……大さじ2と1/2
- 塩……適量
- 白ワイン……大さじ2
※レシピではカッチュッコの名前にちなんで5種類の魚介(マダラ、スケトウダラ、カニ、赤エビ、帆立)が入ったセットを用意しています。市販の海鮮鍋セットはもちろん、お好みの魚介を個別に組み合わせて使ってもかまいません。
※ガーリックトーストを作る場合、バゲット1/2本、にんにく1/2片もご用意ください。
作り方① 具材を準備する
スープのベースとなり、魚介の臭みも取ってくれる香味野菜を切ります。
玉ねぎ、にんじんは皮をむいて、セロリは筋を取り、それぞれ薄切りにします。今回は野菜のシャキシャキ感を楽しめるよう薄切りにしていますが、スープとの一体感をより楽しみたい場合は細かくみじん切りにしてもかまいません。
味にパンチをきかせてくれる赤唐辛子とにんにくを切ります。赤唐辛子はヘタを切り落として中の種を取り除き、小口切りにします。キッチンばさみを使うときれいに切れるのでおすすめです。
※赤唐辛子の種は、後ほどご紹介する辛さアップのアレンジに使えるので、試してみたい方は捨てずに残しておいてください。
にんにくは皮をむいて芽を取り、みじん切りにします。
メインの魚介は、ものによって下処理が少し異なります。例えばタラなどの白身魚なら軽く塩を振り、出てきた水分を拭き取っておくと下味がついて臭みも抜けやすくなります(甘塩タラの場合はすでに塩味がついているので不要です)。
カッチュッコは、魚だけでなくエビやカニなどの甲殻類や貝類、タコ、イカなどを入れるとうま味が格段にアップします。特に海鮮鍋セットによく入っているエビやカニは、みその部分からも濃厚な良いだしが出るのでおすすめです。これらの甲殻類は、流水で洗ってぬめりなどを取っておけば臭みが抑えられます。エビを使う場合は、背わたも取っておいてくださいね。
タコやイカを使う場合も、洗って内臓を取るなど、基本的な下処理をしてから食べやすいサイズに切っておきます。
作り方② 炒めて煮込む
1. 鍋ににんにくと赤唐辛子、オリーブオイルを入れます。そこで初めて火をつけ、弱火で香りが立つまで炒めましょう。
2. にんにくの良い香りがしてきたら、玉ねぎ、にんじん、セロリを投入。少し火を強めて中弱火にして塩少々を振り、そのまま1分ほど炒めます。
3. 全体に油がまわったら、軽くふたをして弱火にします。焦げ付かないよう時々混ぜながら3分ほど蒸し炒めにして、野菜にツヤが出て甘みが増してくればOK。白ワインを加えて香味野菜となじませながら、一度煮立たせましょう。その後、トマト缶を投入します。
ヘラなどでトマトをしっかりつぶすようにしながら、なじませていきます。
4. 煮立ったら一度火を止めて、鍋に魚介を入れます。
この時、できるだけトマトのソースに沈めるようにしながら鍋に入れることで、味が入りやすくなります。火がしっかり通るよう、なるべく重ならないように全体に並べ入れるのもポイント。
再び火をつけて、今度は中弱火でふたをして煮込みます。
時間は、5~8分。一番身の厚い、火の通りにくそうな魚介(今回の場合はスケトウダラ)は時々上下を返しながら、しっかり火が通るまで煮ていきます。
さあ、できました! エビもカニもしっかり赤くなり、魚もプリッとして中まで火が通りましたね。
魚介からおいしい味が出ていますが、ここで味を見て塩気が足りないようであれば塩を少し足してもOK。お好みでパセリ(分量外)を添えると色合いが良くなります。
ガーリックトーストを添えて食べるのが定番
カッチュッコは、ガーリックトーストと一緒に食べるのが定番です。
食べ方や盛り付け方が少し変わっているので、簡単にご紹介しますね。
ガーリックトーストの作り方
1. カッチュッコを煮ているあいだに、ガーリックトーストを作ります。
バゲットを2cmくらいの厚さにカットして、トースターなどで裏表あわせて2~3分、表面がカリッとするまで焼きます。
2. トーストできたら、半分に切ったにんにくの断面をこすりつけます。これで完成です。
もちろん、普通のガーリックトーストのようにオリーブオイルやバターなどを塗って焼いてもかまわないのですが、カッチュッコと一緒に食べる場合、魚介のうま味を堪能していただきたいので、これぐらいシンプルな作り方で十分です。
盛り付けは、最初にガーリックトーストを皿に敷いて……
その上から、カッチュッコの具材やスープをのせていきます。
ちなみにブイヤベースは具材とスープを別々に盛り付けることがあるのに対して、カッチュッコはこのように全具材を一緒に盛り付けて食べるのが特徴です。いろいろな具材のうま味が混ざり合った味を豪快にいただく、カッチュッコならではの楽しみ方ですね。
では、早速食べてみましょう。カリッと焼いたガーリックトーストが、カッチュッコのスープを吸い込んですでにおいしそう……!
ひと口食べると、その濃厚さにびっくり……! ふわっとやわらかな白身魚に、濃縮された魚介のうま味。エビやカニのみその香りとコク、プリッとした帆立の食感も楽しめて、とても複雑で奥深い味わいです。
食欲をかき立てるにんにくや赤唐辛子もよくきいています。上品なイメージのあるブイヤベースに比べて、よりパンチのある味わいで、パンだけでなくご飯やパスタにもよく合いそうです。
ガーリックトーストは、バゲットを焼いてからにんにくをこすりつけているので、生にんにくのハッキリとした辛みと香りが感じられます。これがカッチュッコと相性ぴったりで、どんどん食が進みます。
辛さアップの唐辛子オイルもおすすめ
さて、辛いのがお好きな方には、こんなアレンジはいかがでしょうか?
赤唐辛子とにんにくをオリーブオイルに漬け込んだ、「唐辛子オイル」です。
唐辛子オイル(作りやすい分量)
- エキストラバージン(EXV)オリーブオイル……150ml
- 赤唐辛子……3本
- にんにく……1~2片
作り方は、とても簡単。つまようじで数カ所穴を開けた赤唐辛子と、包丁の腹でつぶしたにんにくを清潔なビンなどに入れ、EXVオリーブオイルに漬けてひと晩置けば完成。カッチュッコを食べる時にお好みの量をまわしかけてみてください。
※辛いのが好きな方は、カッチュッコを作る工程で残った赤唐辛子の種を追加するのもありです。
※唐辛子オイルの保存期間は冷蔵で1週間です。
フレッシュなEXVオリーブオイルの香りとコク、まろやかさで、カッチュッコがまた新鮮な味わいに。赤唐辛子の辛みと食欲そそるにんにくの風味がさらにプラスされるので、よりメリハリのある味を楽しめます。濃厚な魚介とトマトのうま味もより引き立てられますよ。
まとめ
さまざまな魚介のうま味がひと鍋にギュッと詰まった、イタリア料理「カッチュッコ」。
香味野菜、トマト、赤唐辛子、白ワインを使い、魚介の生臭さや雑味をしっかり取っているので、スーパーマーケットの手軽な海鮮鍋セットでも、普通のトマト煮とはひと味違った味わいを楽しめますよ。
また、水を加えずに作るため、とても濃厚でうま味たっぷりに仕上がるのも大きな特徴です。定番のガーリックトーストと食べるのはもちろん、ご飯やバターライスなどと合わせてもおいしくお召し上がりいただけます。
カッチュッコはもともと、漁師町で余った魚や売り物にならない魚を集めた「ごった煮鍋」として親しまれていたそうです。だからこそ、豪快に作れるのも大きな魅力。ぜひ皆さんも、お気に入りの魚介を使って楽しんでみてくださいね!
書いた人:庭乃桃
料理・食文化研究家、女子栄養大学 食生活指導士。「おいしい」を取り巻くさまざまな食卓の風景に目を向けながら、企業向けレシピの開発や、執筆、講演など多方面で活動中。著書『おいしく世界史』(柏書房、2017年)。
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