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鍋料理の楽しさ [吉武英行 五感の旅] - 大阪日日新聞 - 日本海新聞

吉武英行 五感の旅

2023年1月30日

その地方の鍋料理が出るとうれしい

 すき焼き、しゃぶしゃぶ、ふぐちり−。鍋料理というのは、他の料理とは明らかに違う独特の魅力がある。冬になれば必ずといって「今夜は鍋にしようか」という会話が津々浦々で交わされているはずだ。もちろん冬だけではなく、真夏でも鍋の需要はある。

 旅館料理にも鍋は取り入れられている。だが、ほとんどの場合、一人用の固形燃料を使った小ぶりな鍋。固形燃料の独特のにおいを嗅ぎながらでき上がるのを待って、適当なところを見計らって食べるスタイルである。小鍋に固形燃料だから本格的な調理ができるわけはなく、最終的に温かくなればいいという程度。まずくはないが、鍋料理の醍醐味(だいごみ)はないというのが正直なところだ。

 「固形燃料のにおいが嫌い」「でき上がる前に火が消えた」などという話はよく聞く。後者の場合は固形燃料をもう一つもらえばいいが、今度は火が余ってしまう。温かい料理をできるだけ手間をかけずに出すには固形燃料の一人鍋は便利だ。でもそれはあくまでも旅館の都合。おいしく食べたいというお客には満足できるものではない。固形燃料が悪いという意味ではなく、重宝しているのも事実。

 以前、本格的なすき焼きを旅館で出してもらったことがある。連泊の2日目だった。前日と違うものというので用意してくれたのだが、4人でつつけるような大きさの鍋で、食事処(どころ)で卓上コンロを使った。野菜、お肉と大満足した記憶がある。

 地方にはその地方独特の鍋料理がたいていある。豪華なものでなくても構わない。その地方で昔から食べられている鍋が旅館で出たらうれしいのでは。その土地でしか食べられないものには、単に味がどうこうというだけではない、プラスアルファの魅力があると思うのだが。

 (ホテル・旅館プロデューサー)

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