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コソボでおなじみ「フリア」はパンケーキ…春の到来を祝う郷土料理です - 読売新聞オンライン

 バルカン半島中部に位置する小国コソボには、郷土料理のパンケーキ・フリアがある。原料は小麦粉、バター、ヨーグルト、塩と水だけ。クレープのような生地をミルフィーユ状に何層も重ねて焼く。

 3月中旬、南西部プリズレンでは、ジェラル・セルビナーゼさん(61)が直径約50センチ・メートルの蓋をたき火で熱していた。フリアづくりに欠かせない金属製の蓋は「サチ」と呼ばれる。重さ約10キロの蓋を操るのは重労働だが、セルビナーゼさんは「フリアを作るのは夏の終わり以来よ」と張り切っていた。

 この日は暦上、春が始まる前日。フリアは朝昼夕と日常的に食されるが、アルバニア語で「神へのささげ物」を意味する。古代から太陽神への感謝を込めて作られてきたという。今でも長い冬が終わると陽光の下に親戚を集め、春の到来を祝って作る習わしだ。

 サチと同じくらいの大きさの器に小麦粉と塩、水を混ぜた生地を薄く敷き、熱したサチをかぶせる。焼き上がったらバターとヨーグルトを混ぜた生地を流し込み、再びサチをかぶせて焼く。

 サチを開けるたびにジュッと快い音がして、バターの香りが広がった。この手順を何十回と繰り返し、何時間もかけて厚さ5~6センチに仕上げる。食べやすいサイズに切ったら出来上がりだ。

 熱々のフリアを手と舌で楽しむため、水平に数層ずつめくって食べる。きつね色の表面はパリパリだが、めくるともっちりとした食感となる。ほどよい甘みがあり、バターの香ばしさとヨーグルトの爽やかさが口の中でマッチする。

 根気のいる作業の末に生み出される優しい味は、勤勉で実直なコソボの国民性を表しているようだ。

 金属製の蓋「サチ」は、灰をかぶせて高温に熱してから器にのせて蒸し焼きにすることで、素材のうまみを引き出す。バルカン諸国で広く使われ、パンやパイ、焼き肉をつくることもある。

 欧州最貧国の一つとされるコソボは、西欧への出稼ぎ労働者が多い。海外から国内への送金が国内総生産(GDP)比で約2割に上る。出稼ぎ中のコソボ人は、フリアが恋しくなると言われる。首都プリシュティナのパン店では、電気オーブンやかまどで焼いたフリアが1個1~2ユーロ(140~280円)で買える。

 旧ユーゴスラビアのコソボ自治州で、独立を求めるアルバニア系住民とセルビア人主導の政府が対立したコソボ紛争(1998~99年)によって、食料事情が悪化した。当時、少ない原料で作ることができ、1皿で15~20人の食欲を満たすフリアは貴重だった。逃げ遅れ、山岳地帯に取り残された住民は、敵襲の合間を縫ってフリアを作り、命をつないだという。

 腹持ちが良いため、貧しい家庭が多かった紛争からの復興期もコソボ人の食生活を支えた。ぜいたくはできなくても、コソボ人にとってフリアがささやかな楽しみだった。紛争を乗り越えるのに欠かせなかった伝統の味は、今も国民食として根付いている。

 国内外の総支局長が、日頃通っている店のおすすめメニューなど、地域の自慢の味を紹介します。

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