愛媛県の松山市は過去3回訪ねている。歴史ある建造物と自然と現代のまち並みがきれいに溶け合ったうつくしいところで、何度訪ねても飽きない。
本連載は西森路代さんとのリレーコラムだが、前回は西森さんの故郷である松山の名物料理や郷土菓子などがたっぷりと綴られていて、引き込まれた。『でゅえっと』のミートソースの魅力的だったこと! 帰省したら食べたくなるものがある、というのは幸せなことだ。西森さんが松山で暮らして食べて育った時間の長さを、読みながら感じた。
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私は転勤族の子どもなので、各地に思い出の味はあれど「私を育てた味」というスケールで語れるほどのものは正直、無い。思えばずっと「余所者」である。だからこそ各地で「ここにはこういうものがあるのか」という発見もしやすく、今の仕事に活きてもいるのだが、我が地元の味、と誇れるものが無いのはさびしい……けれど、まあ仕方ない。
さて私の番は何を書こと悩んでいたら、担当さんが「いまトレンドは韓国料理ですよ」という。編集部でも大人気なのだそうな。そう言われてみれば、去年は魅力的な韓国料理レシピ本が続けて出たな、と思い出す。
野菜の調理法のアイデアが豊富
『食べたい作りたい現地味 もっと!おうち韓食』(主婦の友社)は著者である料理研究家・重信初江さんの韓国フード愛がみっちみちに詰まっていて、読んでいて実に面白く、楽しかった。重信さんの熱意を編集者とデザイナーと写真家がしっかり受け止め、誌面へ万全に展開させている一体感もすばらしい。
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ただレシピと写真を羅列するだけでなく、実際に韓国取材もしてそのフードカルチャーの面白さや奥深さ、現地の空気感を盛り込もうとする姿勢も尊い(こんな贅沢な作り方はきょうびなかなか出来ない……)。
この本からうちの定番おかずがいくつか増えた。
「炒め大根のナムル」は特に気に入って作り続けている。大根って、使い切れないこと多くないだろうか? 汁ものやサラダに使って、余りそうなときは迷わずこのレシピに頼っている。大根を炒め煮にして、ナンプラーと砂糖を主な味つけにする発想は本書と出合わなければ得られなかった。
重信さんの本に共通することだが、読者の「作りやすさ」ファーストの視点もうれしい。やっぱり外国の料理なので手に入りにくい調味料も出てくるが、代用情報もなるたけ併記されているのがありがたく、調味料の分量やプロセスも可能なかぎりシンプルに、が徹底されている。
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「にらの和え物」は、にらと玉ねぎを生で和えるというのに最初はちょっと抵抗あったが、クセになる味わいだった。単品でもいいが、炒めた肉や豚キムチなんかと一緒に食べると実においしい。まさに今の時期、香りのやさしい春にらと新玉ねぎで作ったらベストじゃないだろうか。
韓国料理は、日本料理とまた違ったやり方で野菜を調理するアイデアが豊富だ。ナムルひとつとっても生で和えるもの、加熱して作るものと、調理法もいろいろ。加熱すると量をたくさん摂れるし、野菜の使い切りにもいい。日々の野菜おかずにマンネリを感じている人は韓国料理を学ぶの、おすすめ。副菜のレパートリーがグッと広がるはず。
注目の韓国料理研究家による優しい味
本書で真っ先に「作ってみたい!」と思ったのが「おからのチゲ(コンビジチゲ)」だった。米のとぎ汁で豚肉、白菜キムチと一緒におからを炒め煮にするなんて面白いなあ……と。見た目は辛そうかもだが、おからのやさしい味わいがホッとするおいしさ。おからは大豆のしぼりかすなのでそれなりの満足感もあり、ダイエット時の食事にもいいと思う。
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もう1冊は『おいしい韓国料理のレシピ』(朝日新聞出版)で、著者は料理家のキム・ナレさん。お手軽な料理も紹介されつつ、本格キムチの作り方や豆乳から手作りするコングクス(豆を使った冷製の麺料理)のレシピなども紹介される。
キム・ナレさんは近年注目を集めている韓国料理研究家で、昨年はNHK『きょうの料理』にも初登場、知名度を一気に上げた。
韓国料理というと辛くて味つけしっかり、あるいはジャンクなイメージを持つ人も少なくないと思う。だが素材の味を大事にした、体にやさしい味わいの料理もたくさんあるのだ。キム・ナレさんの本からは、そんな韓国料理のおいしさも知ってほしいという気持ちが強く伝わってくる。あれこれ作ってみたが、傑作のひとつがわかめスープ。滋養のかたまりという感じだった。この3月下旬、新刊が発売されるとのことでそちらも楽しみである。
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